小さな家は「住いの原型」であり「未来の家」
2023.11.28K⁺Aでエグゼクティブデザイナーをしております千北 正(チギタ タダシ)と申します。久々のブログ更新です。小さな家は「住いの原型」であり「未来の家」の紹介です。あの偉大な建築家も「小さな家」に拘りがありました。建築に興味のある人ならば、「小さな家」と聞いて真っ先に浮かぶのが、近代建築の巨匠でフランスの建築家ル・コルビュジェの「小さな両親」の家なのではないでしょうか?ル・コルビュジェが36歳のとき、1924年竣工の両親のためにスイスのレマン湖畔に建てた平屋住宅です。父親は約一年間この小さな家に暮らして他界しました。その後、母親が一人で101歳まで過ごしたことから『母の家』とも呼ばれています。この家を知ったのは日本大学藝術学部(日藝)を卒業した3年目の夏、ICSカレッジオブアーツ(旧:インテリアセンタースクール)教職助手職時代に購入した一冊の白く薄く小さな著書でした。それがル・コルビュジェ著「小さな家」1980年森田一敏 訳でした。
レマン湖からわずか4m下がった湖畔の風景に溶けこむように建てられた「小さな家」。庭では家庭菜園ができ、屋上庭園もあります。リビング・ダイニングには機能的な折り畳み式テーブルがあり、奥はゲストルームです。可動式の家具や壁で室内を仕切れる工夫が施されています。間口4m、高さ2.5m、長さ16mの細長い箱で、延べ床面積は60㎡。わずか18坪のコンパクトな家です。湖に面した長さ11mの横長の窓からはたっぷり日差しが入り、湖の向こうに雄大なアルプスを望むこともできる自然と調和したのびやかな家です。
室内は限りなくワンルームに近く、仕切りはありながらも解放感と「回遊性」をもたせた間取りです。すべての部屋が見通せ、実際の広さ以上の広がりと空間の豊かさを感じさせてくれます。
下の図はこの著書に掲載されている、コルビュジェが描いたサーキュレーションの図で、1 前面道路、2 門扉、3 入口扉、4 クローク(重油暖房装置を併設)、5 キッチン、6 洗濯室(および地下酒蔵への階段)7 裏庭への出入り口、8 居間、9 寝室、10 浴室、11 乾燥室およびテーブルクロスやシーツ類収納庫、12 客室居間兼寝室、13 庭に面した軒庇、14 この家の正面部、例の11mの窓がある、15 屋上へ至る階段
当時60歳だった母親が、父親と2人で老後を快適に過ごせるようにと考え抜かれたプランだけに、住居としての必要最小限の機能を備えたシンプルなものでありながら、折りたためる壁や回転移動式の照明など、随所に遊び心もちりばめられた「愛のある家」です。
それは「狭い家こそ心地よい」の究極の形です。そして「未来の家の形」なのかもしれません。
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